とある撮影会をきっかけに、新品のデジカメを購入した彼氏君。

元々カメラを趣味にしていたわけではないのだが、男子のサガと言うべきか、新しい機械をあれこれといじっては目に付くものを撮影し、

パソコンでプリントアウトをして遊んでいる。

本人はいたって楽しそうなのだが、その背中にはイラついた視線が突き刺さっていた。

険しい目つきで彼をにらみつけている女性、それはモリガンである。

カメラを買ったのは、まあ、いい。

何故ならそれはモリガンの「キヌコレフィギュア発売記念モリガン本人生写真撮影会」の為に買ったのだから、

モリガンにしてみれば悪い気はしない。

寧ろあの日は愛しいダーリンと二人きりで(結果的に)撮影会場を貸しきりにして楽しめた上に、

後で見せてもらったカメラには、メモリーいっぱいになるまでモリガンだけの画像が詰め込まれていたのだ。

おまけに、デジカメは現像に写真屋が必要なく、自宅のパソコンで印刷まで出来ると聞いて、

それはまさに他人に覗き見される事の無い二人だけの楽しいイベントの思い出だと、モリガンにはそう思えた。

メモリーの中にはピンボケや手ブレで出来の悪い写真も沢山あったが、モリガンはそれに幻滅するどころか、寧ろ微笑ましく思った。

(ダーリンってばこんなに必死になっちゃって……可愛いんだからぁ)

一番出来のいい写真を選び、それをポスターサイズに印刷しようとプリンタの設定に四苦八苦する彼氏の横顔を見つめる内、

モリガンは悪戯心と愛情を我慢出来ず、彼氏の肩にしなだれかかった。

「ねぇ……そんな写真なんかより、綺麗なひとがいるでしょう……あなたの目の前に」

その後の二人が何をどうしたかについては論ずるまでもない。二人は夜を徹し、ナニをドウしたのであった。

問題は、その後だ。

最初は新しいオモチャに興味を持っているだけ、どうせすぐに飽きるはずだとモリガンは思っていた。

何故ならたかが写真を撮ったり閲覧したり動画を撮ったり再生したり、モリガンの知っている普通のカメラよりずいぶん機能が増えてはいたが、

ともかく単なるちっぽけな金属の箱が自分以上に魅力的な存在であるわけがないと、そう信じているからだ。

信じているのだが、近頃の彼氏と言えばデジカメをいじってばかりで、一緒に出かけても立ち止まっては何かしらを撮影している。

そのくせ、モリガン本人にレンズを向けた事は、あの日以来一度もない。

そうなればモリガンの方も意地になり、自分から撮って欲しいなどとは口にも出さない。

新しく使えるようになった機能を嬉々として説明する彼氏の顔が、無性に気に障る。

やがてモリガンの声に対しても生返事が多くなり、日に日に彼女の不満は募っていった。

いよいよストレスがピークに達したモリガンは、パソコンのモニターに向かう彼氏の背中に罵詈雑言の詰まった口を開きかけた。

その瞬間、椅子を跳ね飛ばしそうな勢いで、彼氏が立ち上がる。

虚を突かれ、目を見開いたモリガンに駆け寄ると、彼氏は出かけよう、と言った。

唐突な申し出に混乱したまま、強引に手首を掴まれてモリガンは外へと連れ出された。

そのペースに押し切られてはいけない、一度がつんと言ってやらなければ、と気を取り直したモリガンが声を発しようとすると

またも突然に彼氏が立ち止まる。

「な、何なのよいきなり!大体ね、どういうつもりなの?カメラばっかりいじって……」

モリガンの言葉をさえぎって、彼氏はポーズを取るように促す。

「ポーズ?ポーズって何が……え?」

彼氏は素早くデジカメを構えて、既にモリガンを被写体に捉えていた。

「ど、どういう風の吹き回しなわけ?ポーズって、写真のこと…?私の写真を撮りたいってこと?」

我が意を得たりとばかりに彼氏は熱弁を振るう。

今日まで撮影の練習をして来たのは、モリガンの写真を撮りたかったからなのだと。

満足のいく腕前になるまで、一番撮りたいモリガンを我慢して、物や風景を撮り続けて来た事。

あの撮影会で上手にモリガンを撮影出来なかったから、必死に練習した事を。

その言葉でモリガンは思い出す、自分の言った一言を。

“そんな写真なんかより、綺麗なひとがいるでしょう”

確かにモリガンは、そう言った。

その何気ない一言を、彼はずっと気にしていたのだった。

モリガンはもっと上手に撮影して欲しかったのではないか?“そんな写真なんか”ではなく、本物の美しさを損なわない写真を撮らなくては、と。

彼の本心を理解したモリガンの胸に、強烈な衝動がこみ上げる。

(か、可愛いぃぃ……っ!可愛過ぎるわダーリィンっ…ダーリンってば私のことが大好きなのね……

 あぁぁ…写真なんか撮ってる場合じゃないでしょう?私、ちっとも怒ってなんかいないのに…ダーリン、ダーリン、ダーリィンッ!今すぐベッドに連れ込んじゃいたいわぁ。

 いいえ、お家までなんて待てないわ。どこでもいいわ、お外でも、暗い所に連れて行ってあげたぁい……)

しかし、彼の努力を無碍にする訳にはいかない。

モリガンは喉から出掛かった本心を押し込んで、碧の髪を撫でて、あくまでも事も無げに言い放つ。

「ふふ……良い心がけね。この私を撮るのなら、当然それくらいの努力はしてもらわなくちゃ。

 早速、お手並み拝見と行こうかしらね。ポーズですって?私は最高のモデルよ。どんなポーズでも美しいに決まっているじゃない。

 とは言っても、新米カメラマン君では役者不足でしょうね。いいわ。

 特 別 に こうしましょう。あなたが私にポーズをリクエストしなさい。あなたの言ったとおり、どんなポーズでも取ってあげるわ。

 言っておくけれど、これは 特 別 よ。あ な た が 私の写真をどうしても撮りたいというから、仕方なく付き合ってあげているだけなんだからね」

かくして、モリガンと彼氏の撮影デートが始まった。

全く予定に無いイベントではあったが、彼の目を引こうとデート用の服を着て来たのは、モリガンにとって幸いだった。

次から次へと撮影ポイントを引き回されながらも、彼に手を引かれて街を歩くのは、嬉しかった。

そしてその撮影場所は、思い返してみればここ最近に彼が立ち止まってシャッターを切っていた場所であり、

彼が前からこの日の為に準備をしていたのだと思うと、モリガンの胸の動悸は高まる一方で、

レンズを向けられると心からの笑みが顔中に広がる。

普段のモリガンならきっとしないであろうポーズも、夢中になって決めていった。

ごく普通のピースもそうであるし、胸の谷間を強調した前屈みの姿勢や、駆け回って汗に濡れた腋を大きく拡げたポーズ、

下着がはみ出そうなくらいの大股開きも、野外だと言うのにお構いなしだ。

寧ろ、彼のオーダーが熱心であるほどモリガンにとっては嬉しく、もっと大きく脚を開いて、と言われればそれに従った。

全ての撮影を終えた頃には、日はとっぷりと暮れて二人は公園のベンチで休憩していた。

今日の成果を早速液晶画面で確認している彼氏の横から、モリガンも覗き込もうとする。

彼の目にどんな風に自分が映るのか知りたいというのはモリガンにとって当然の心理だったが、彼氏はそれを隠そうとする。

どうして、と食い下がるモリガンに対して、まだ印刷をしていない、最後に完成するまでは綺麗な写真が出来上がるかどうかわからない、と彼氏は答える。

線の細く気も弱そうな彼が、自分の事となるとこんなにも意固地になる。

本当は写真の出来で怒ってなんかいないと教えてあげたくもあったが、モリガンは秘密にしておく事にした。

彼の気持ちを独占出来る幸福感に浸りながら、恋人の肩にそっと自分の首をもたれ掛けさせた。

唇に、柔らかい感触が触れる。

彼に唇を奪われた事に気付き、モリガンの体に甘い驚きが広がっていく。

ふと視線を落とせば、彼の片手が不自然な位置で強張っている。

その手を優しくどかしてやると、下半身の一点がズボンの下から猛々しく盛り上がっていた。

考えてみれば当然の事、これまでは淫魔であるモリガンの性技を夜毎たっぷりと味わっていたその体が、

ここしばらくに限って全くの禁欲生活を余儀なくされていたのだ。

健康な男子ならばこれほどの苦痛はあるまい。

「うふふふ……本当に可愛…卑しいわね。あなた、カメラをいじっている間も私のことで頭がいっぱいだったんでしょう?

 どうせ、いやらしい事ばかり考えていたに違いないわ。あなたの考える事なんて、予想がつくわ。

 ほぉら、正直に言ってごらんなさい。私があなたの欲望を解放してあげる。

 ……あなたの望み通り、何でもしてあげる……今夜は、頑張ったご褒美に…ダーリ…あなたの言う事を、何でも聞いてあげるわ……」

ベンチから腰を上げたモリガンは、すり抜ける風のように滑らかな動きで彼の股座の間に体を滑り込ませ、慣れた手つきでズボンのファスナーを降ろしに掛かった。

ズボンと一緒に下着までも器用に引き下げると、窮屈そうにしていた男根が拘束を逃れて勢い良く跳ね起きる。

普段からして目を見張るサイズではあったが、禁欲を続けた今夜のそれは、一段と硬く大きく膨れていた。

モリガンの瞳はそれを愛しい恋人の像と重ね合わせ、痛々しいまでに張り詰めたその欲望を一刻も早く解放してあげたい思いに駆られる。

その場にしゃがみこみ、股間へと顔を近づけると、生々しい雄の香りが鼻先をくすぐる。

彼と同じく禁欲の夜を重ねていたモリガンにとってそれは誘惑の芳香に他ならず、

気が付けば彼の返事も待たずにその茂みへと舌を伸ばしていた。

黒い縮れ毛を掻き分け地肌へとたどり着いた桃色の濡肉は、その先端で陰茎と陰嚢の境を小刻みにちろちろと刺激する。

獲物が心地良さそうに脈打つ感触を確かめると、そこから一気に陰茎を舐め上げ、しかし亀頭に到達する寸前で再び元の根元に戻る。

角度を斜めにずらしもう一度舐め上げては戻り、それを繰り返して陰茎を一周すると、今度は陰嚢への深いくちづけを始める。

柔らかな唇を押し付け、艶かしい吐息を玉袋の皮にこもるる様に吐きかけて、外気との温度差に萎縮しそうな陰嚢を体温と湿気でほぐす。

若い陰嚢が張りを取り戻すのを確かめると、精気の詰まったそれを丸めた唇で甘噛みしては放し、甘噛みをして放し、

あちこちをぱくんと咥えては自分の息でくすぐって、戻す。

とうとう繰り返される挑発に辛抱を切らした彼が、両掌でモリガンの頭を鷲掴みにする。

強引に引き上げられる首に求められる喜びを感じながら、モリガンは男の股間を凝視する。

ゆらゆらと揺れるそれがモリガンの顔の一点、口腔に狙いを定めるのを期待と興奮の入り混じった熱視線で見つめるモリガン。

頭上から、彼の言葉が降る。口を開けて欲しい、と。

「……くほぉ……」

モリガンはまぶたを閉じ、彼のために、静かに唇を開放する。

しかし待ち望む熱く硬い感触は中々彼女の口腔にやって来ない。代わりに、もう一度彼が語りかける。

もっと大きく開けて欲しい、彼はそう言った。

「んぉ……おぉ……ん……」

もっと。

「ふほ…?お、ぉぉん……」

もっと、もっと。

「むぉぉん……んおぉぉ……」

一杯まで、開けて。

「お、おぉぉ……んぉぁぁ……あぁ〜〜〜ん」

モリガンが口を全開にし、喉肉までさらけ出したその瞬間、彼が握力を掛けてモリガンを押さえつける。

同時に、全力を込めた腰が一気に突き込まれ、巨根はモリガンの口内を貫通し無防備な喉奥まで思い切り突き刺さった。

「お゛ぉぉおおごぉぉぉぉぉっ?!うお゛!ごぉっ!ぐほおぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

赤熱した鉄杭と見紛うばかりの強烈な衝撃に打ち貫かれ、モリガンは悶絶する。

目尻に涙が浮かび、えづく彼女に気遣う余裕も無く、彼はモリガンの頭を掴んだままごりごりと左右に捻って喉奥をえぐり、

かつ暴力的なピストンを開始する。

「ぐごっ、ごぉっ、ごっ、ごっ、ごごぉぉっ!?ごぉえぇぇっ、えごっ、げごぉぉぉっ!!んごごごご、ふっごぉぉぉっ」

彼の猛攻に翻弄され、モリガンはあられもない声を絞り出す。

苦しげな声を吐き出しながら、しかし、モリガンは味わった事の無い不思議な感覚に浸っていた。

(こ、こんなの、初めて…!こんなに激しく…されるなんてぇっ!!ダーリンッこんなに私を欲しがるだなんてぇぇっ!

 苦しいぃ、苦しいのに…嬉しいぃぃ……わ、私、これじゃ、オナホールみたい……私のお口が…ダーリンのペニスを満足させる…オナホにされちゃうぅっ!

 喉の奥までオマンコみたいに犯されて……熱々のおチンポをねじ込まれてぇぇ……ダ、ダーリンったらぁぁ…そんなにこのオナホが気に入っちゃったの…?

 壊れちゃうっ、ダーリンに壊されちゃううっ!も、もぉっ、そんな事したら、代わりなんか無いんだからねっ。

 私より上手な女なんていないんだからっ、私をこんなにしていいのはダーリンだけなんだからっ。

 私がダーリンの専用特注お口オナホールだって、教えてあげるわ…!)

突かれる一方であったモリガンが、自ら首を動かし始める。

彼のピストンに合わせて緩急をつけ、さらに口内の舌も活動を再開して肉竿をなぞり始める。

異変に気づいた彼が留まる隙も与えず、唇をすぼませてモリガンは男根を自分の口腔の中に密封してしまう。

我に返り、自分の暴力的過ぎる所業を思い出した彼がとっさに謝ろうととするのをさえぎって、モリガンは彼のズボンの生地を引く。

「んぐっ……ちゅぷぉ……んふふぅ……ふほぉぉ…」

上目遣いで彼を見上げるモリガンの視線に、非難の色は無い。

その目が意味するのは、もっとリクエストをして欲しい、というおねだりであった。

蟲惑的な視線に誘われ、彼の喉は吸って、と欲望のままに音声を発していた。

「んふぅぅ……ん〜…んちゅぅぅ…?」

加減を聞いているのだろう、口に性器を咥えたままモリガンが小首を傾げる。

無性に湧き立つ物を抑え切れずにいる彼にとって、選択肢は一つであった。

もっと強く、ありったけの全力で吸い付いて欲しい。

「ふ…ぶぅ…?!ん…ん゛んっ、んぶぢゅるるるるるるぅっっ!ぢゅぞるるるるっ!」

彼の命を受け、モリガンが吸引を始めた。

普段の品性や体面を放棄し、頬を凹ませ股間を注視したより目になりながら、はしたない汁音を立ててモリガンはしゃぶりつく。

首の前後運動に伴って、顔を引き戻す時には吸引力で陰茎にへばりついた唇がひょっとこの様に伸びたが、それもお構いなしであった。

「んぼっ!んっぽっ!んっぽ、んっぽ、んっぽ、ぶっぽ、ぬぽっ、ぬぽっ、ぬぽっ、ぬぽっ、ぬぽぉぉっ」

自分の股間にかぶりつくモリガンの表情、息とも声ともつかない奇妙な喘ぎが何とも愛しく髪を撫でてやると、

モリガンは鼻息を荒くして一層熱心に男根を吸い上げる。

そんな彼女を見つめている内に、彼は隠し通すつもりであったもう一つの願望、それを明かしてしまいたいという強烈な誘惑に駆られるていた。

一縷の望みを掛けてポケットをまさぐると、指先に冷たい金属が当たった。

望みとは果たして、どうかそれがありませんように、という禁欲の祈りであったのか、

それとも、今この場にこそそれがありますように、という欲望の欠片であったのか、彼自身にも、もう良くわからなかった。

だが、それがある以上、“そう”せずにはいられなかった。今夜のモリガンを前にして、彼は自制を維持していられるほど、聖人ではなかった。

彼の脳裏には、何でもしてくれるというモリガンの台詞が反響し続けていたのだ。

夢中でイラマチオを続けていたモリガンだが、やがて顔に何か硬いものが当たるのに気付いた。

それは今頬張っている肉の硬さとはまるで異質な、金属的な硬質感であった。

視線を上げると、公園の明かりに照らされた金属片が、彼の手元で鈍く光を反射している。

それは革のベルトからぶら下がった、U字型の金属棒の両端がカギ状に歪曲した物体であった。

物を掛ける“フック”を連想させるそれが何であるか理解するには、少々の時間を要した。

I(……え…あれって………もしかして…そんな…!は、鼻フック…!?)

何故そんなものがここにあるのか、どうして彼がそれを手にしているのか、それはモリガンの理解を超えていた。

鼻フックとは、その二つのカギ状の部分を相手の鼻腔に差込み、鼻の穴を吊り上げて顔の形を醜くゆがめてしまう器具である。

屈辱を味わわせる為の拷問具を、あの彼が目の前にぶら下げている理由が解らず、モリガンは混乱する。

(も、もしかして……私に付けるつもりなの…?ど、どうして?私が何か怒らせたの?だって、あんなものを付けたら変な顔になっちゃうのに……)

あくまで奉仕はやめないまま、目線でちらりと彼の表情を窺う。

彼の方もまた、モリガンの表情に注目していた。

二人の視線がかち合った途端、急に不安げな表情になった彼氏はその器具を持った手を隠そうとした。

(……違う?!)

モリガンは反射的に察した。もしこれが何かの罰だと言うなら、彼はあんな表情はしないはずだ。

お仕置きとして、有無を言わさずやらせればいいだけの事。

それをあんな表情をするという事は。

(ダーリン…きっと、“して欲しい”んだわ。だけど私が嫌がるのを怖がっている。

 でも、こんな事今までになかったわ。どうして今日になって……)

モリガンは、自分の言葉を思い出す。“あなたの言う事を、何でも聞いてあげる”といった自分の事を。

(あぁん…ダーリィン……私の言葉を信じてくれてるのね……どうしてそんなに可愛いの……?

 あなたの為なら、私……どんな事でもしちゃう……

 ねえ、こんな事するの初めてよ…怖いわ…でも、とってもどきどきして…ダーリィン…私をどうするつもりなの……?)

「んほおぉっ!!」

怖気づいた彼の手を、モリガンの鼻声が呼び止める。

唇が彼への奉仕に専念している現状、呼びかけはそうならざるを得なかった。

彼の手元に向けた視線を、自分の顔の中心へと落とす。

それを数度繰り返して意図を伝えようとするが、一度開きかけた性癖の扉を閉ざそうとしている心には届かず、彼は鼻フックをしまおうとする。

だが、もしそのままにしてしまえば、彼は二度とその扉を開く事はないだろう。

内に秘めた欲望を隠してうわべだけで当たり障り無く優しく微笑む。

そんな彼を想像し、モリガンはおぞ気だつ。

「ぶっほぉおおおんっ!!」

なりふりかまわず、獣のようにモリガンはいなないた。

その淫具に視線を固定し、鼻先を突き出すと小鼻をひきひくと動かして精一杯にアピールする。

実にみっともない姿ではあったが、彼の歓心を失うまいと、モリガンは必死であった。

懸命な訴えが通じたのか、彼は動きを巻き戻すようにして再び器具を取り出す。

モリガンの鼻先に垂らしたそれと彼女の顔を交互に見比べて、問いかけるような視線を投げかけて来る。

本当にいいの、と恐る恐る尋ねる彼の瞳に、モリガンは妖艶な瞳の笑みを返す。

指を添えて、彼が揺れるフックを彼が固定する。

奉仕の動きを繰り返しながら、モリガンは思う。

(あぁぁ…とうとう付けられちゃうのね……あんなもの付けたら、私の顔が……ダーリンの好きな、綺麗な顔が、豚みたいになっちゃう……

 でも、それがあなたの望みなら……怖いけど……怖いけど、私……)

近づくフックを見つめながら、モリガンはそっと顔の角度を上げる。

ピストンの終点、ちょうどモリガンが最も前へせり出す地点で、フックは待ち構える。

(私に選んでいい、という事……?優しいのね、ダーリン…嫌なら今からでも断っていいって言いたいのね。

 それなら、お言葉に甘えさえて貰いましょう。私の望みは……)

鼻フックの寸前にまで接近したモリガンは、水面から飛び上がるイルカの様に首を跳ね上げた。

彼女の軌道に合わせて彼もまた、その手をすくい上げる。

柔らかに包み込むような彼の手を目掛け思い切りモリガンは顔で飛び込む。

(だぁりぃ〜〜んっ!モリガンを受け取ってぇっ!)

そこに待ち受ける鼻フックの両カギを可能なだけ鼻腔の奥まで受け容れると、元の高度へと戻っていく。

しかし彼の拳はフックへと繋がるベルトを硬く握り締め、力強く引き上げる。

「ふぎぃっ!」

鼻に掛かった責め具はモリガンに喰らい付き、もう外れない。

しっかりと固定された鉄片を通じ、彼が溜め込んだ暴力的な欲望を顔の中心に注ぎ込まれる刺激に、モリガンは唸る。

「ん゛ひぃ…ふひっ、ふんぎぎぎぃぃ〜〜〜…っ! ん゛ひぃぃんっ!」

(く…来るっ、ぐるぅぅぅぅっ!ダーリンの気持ちが、鼻の穴から入ってぐるうぅぅっ!)

顔面そのもので、愛欲を受け止める。それはモリガンの長い生の中でも、初めての体験だった。

自分が生まれもった美貌を、愛する彼の手で歪められ、辱められる。

自分の顔を彼好みに造りなおされ、この顔そのものが、彼の所有物たる証となる。

それは紛れもない、隷属の快感であった。

(おぉぉぉぉ…!さ、されちゃったあぁ…!鼻フックぅぅ…!誰にもされた事ないのに……私の鼻がぁ……顔があぁぁ…!

 あぁぁ……もう、もうだめぇぇ…こんな顔、誰にも見せられない……な、なのに……ぅおぶっ!)

口内の肉棒が、一段と強靭に勃起していた。

(だあ゛ぁりぃぃん……!こんな顔見て、興奮してるのねぇぇ……もりがんのお顔、だぁりん好みにされちゃったぁ……

 嬉しいぃ……こんなに幸せな気持ち、初めて……ねえぇっ、だぁりぃん……わかってるのぉ?

 もりがん、もぉ、だぁりんじゃなきゃ、だめかもぉ……)

新たな形へと変わった鼻で、モリガンは呼吸を始める。

その瞬間、今までとは全く違う感覚が顔中に広がった。

「ふぼぉぉぉおっ!?」

拡張された鼻腔を通り抜ける呼吸気には、頬張った性器の体温、湿度、そして体臭がふんだんに含まれており、

まるで透明なペニスが鼻を通り抜けて行ったかのような衝撃を粘膜に焼き付けられた。

呼吸のたびにそれが往復するとなれば、それはさながらピストンであり、モリガンの性感を一気に高めた。

更に興奮のせいか口内の感度も上がり、まるで本物の女性器に挿入されているかのような刺激を、

モリガンは喉の奥までたっぷりと味わえるようになっていた。

「んっぼっ!ぶほっ、ふぼぉおおおっ!ぼっぐぉぉぉお…ぐぐぅ!」

未知の刺激に白黒とするモリガンの目を、閃光が覆う。

見上げるとそこにはカメラを構えた彼の姿があり、モリガンは鼻フックでペニスを咥えた顔を撮影されていた。

「おごっ?!うぉごごごっ、ふごぉっ、ふほぉ、ふほぉおっ!」

慌てふためくモリガンだが、急かすような彼のピストンに突き動かされて奉仕を再開する。

(と、撮られたぁぁっ!撮られちゃったあぁっ、どうしてっどうしてこんな顔撮るのよぉっ、綺麗に撮ってくれるっていったじゃないっ、可愛い顔で、って……

 ……と、撮ってくれた…?この、顔を…?)

彼は、嘘をついてはいなかった。彼にとって愛しい、愛らしいと思えるモリガンの表情を逃さず撮影しているのであった。

それはつまり、鼻フックを装着したモリガンにとって、最大級の賛辞であった。

(撮ってるうぅ……モリガンを撮ってるぅぅ…あぁんだぁりぃぃんっ、そんなに一杯撮っちゃっていいのぉ?

 カメラの中が、ぜぇんぶ私の恥ずかしいお顔になっちゃうわよぉぉ?ダーリン特製のもりがんにぃぃ……)

口内で激しく脈打つペニスの気配に、モリガンは彼の限界を予感する。

そしてまた、自分も先ほどからの得体の知れない昂ぶりに顔の中を占領されて、今にも絶頂してしまいそうな事を。

(あ゛はぁぁ……い、いぎそぉぉ……お口マンコでい゛っちゃいそう……あ゛、あぁ、あ゛はあぁぁ……

 な、な゛ぁにぃ、だーりぃん?かめらで……また、撮ってくれるの…?ん゛ほぉぉ…顔…も゛っと…可愛い顔にならなきゃ……)

レンズを向ける彼氏の意図を、モリガンは正確に察した。

彼の喜ぶ表情をすれば、写真に撮って貰える、という事だ。

モリガンは必死になってバキュームを強め、唇を更に伸ばす。

シャッター音は聞こえない。

これでもか、と小鼻をひくつかせる。

フラッシュは光らない。

焦りでこめかみを汗に濡らしながら、段々とモリガンには考える余裕が無くなっていく。

お互いの絶頂に向けイラマチオを加速させているのだが、頭の芯をがんがんと突かれる様な心地よい衝撃がどんどん強くなっていくせいで

とても思考を働かせてはいられないのだ。しかしもはや理性というより本能的なまでの執念で彼を喜ばせようとモリガンは粘っていた。

(んぉっおっおぉぉぉおおっ……だっ、だめっ、こんな顔じゃダメなのねっ…!もっとがんばらなくちゃっぁぉごぉぉおおおぉぉっ!!

 おごごごごっ、おごっ、ふんごぉぉぉっ、ち、ちがうぅ!もりがんだけ…ぎ、ぎもぢぃいっ…!気持ちよくちゃ…だーりんもぉっ!)

しかし残酷にもこみ上げる快楽は彼女から思考能力をそぎ落とし、次第にモリガンをチンポをしゃぶる事しか考えられない状態へと貶めていった。

そしてついに、絶頂の時が訪れる。

快感にわななくモリガンの首と、彼の男根の脈打つリズムが重なり合う一瞬、彼がモリガンの鼻フックを強烈に引き上げる。

「ぶぅぉぉぉっ!?」

一瞬僅かに口の隙間を開けたモリガンの喉奥を目掛け、彼は一気に剛直を叩き込んだ。

「ぐぅぉおおごごごごごごごごぉぉぉっ!?んごぉぉぉっぐぅん!!」

唇から柔らかな喉肉の奥底まで犯し貫き、モリガンはその顔の中全てを彼の燃え滾る男根で占領され尽くした。

絶頂を迎える寸前の、その刹那。

あまりに巨大な衝撃で、モリガンの脳味噌の中がぽっかりと空白になる。

彼女の心の小さな何かが、今しかない、と叫び、その閃きがモリガンの体を突き動かした。

「むほぉぉおだぁぁりぃぃ〜んっ!見てえぇぇぇぇぇぇっ!!」

肉棒を咥えたままくぐもった声で叫んだモリガンはすかさず陰茎に吸い付き、今までにない最大級の力でバキュームを仕掛けた。

彼氏の絶頂のタイミングと完全にシンクロしたそれは、射精の勢いを更に高め、噴火のような凄まじい速度と液量を自らの口内に導きいれる。

火傷するかと思われるほど煮えたぎった欲望の塊が、モリガンの奥で炸裂した。

「ぐぬぉおおおおおぉおぉぉぉぉおおぉ〜っ!!」

喉へ直に注ぎ込まれる精の濁流は禁欲の日数に比例して増大しており、

あっという間に彼女に可能な嚥下の量を超えてしまう。

「うごふっ、ぐぷ、ぐぶぶぶっ、ぐぼえぇ……」

有り余る精液が喉に絡まり、彼の股間で溺れるモリガン。

「げぇぼっ、ぅぼっ、んぉおぼぉぢゅぢゅぢゅる゛ぅぅぅぅ〜っ!!」

しかし尚も絶頂中の男根にへばりついて吸引を続ける。

窮地に陥りながらのモリガンのバキュームは、しかしその必死さ故にか先程よりも鋭い快感となって彼の尿道の芯を満たした。

それは次なる絶頂を促すには十分過ぎる刺激であった。

再び噴出する射精流はモリガンの中を逆流し、口内に溜まるがそれもじきに満杯となって行き場を失う。

苦しみと共に、彼の子種で自分を一杯にされる悦びにモリガンは打ち震え、艶かしく首を痙攣させている。

性器同然に火照った口腔を巡る粘液は、やがて脱出口を見つけた。

それはたった二つの小さな孔だったが、そこ以外に道はない。

殺到する熱い精液の目指す先、それはモリガンの鼻腔であった。

だが、自分の顔の中で何が起きているかを把握する判断力は、今のモリガンにはない。

快楽に朦朧とする頭の中で、彼に素敵な顔を見せたい、という声が反響しているだけだ。

突然に意識に浮上する、顔の芯を掘り進む火照った流れの感触。

それが何かはわからない、わからなかったが、新たな快楽の気配にモリガンは縋った。

もう、何が彼に気に入って貰えるか考えられなかった。

ただ、この顔の中に充満した、彼から与えられた快楽の熱気が頂点に達しようとするその勢いに、モリガンは全てを委ねた。

「………っ!!ん…っぶほごぉおおおおおおおおおおおおおお〜っ!? ぅぶぼっ!ぶぴいっ、ぼぴゅぅっ!!」

(あづいぃぃいっ!熱いのぉおっ!顔の中がだぁりんのアツアツでいっぱいよぉおおっ!

 溢れるぅぅ……もぉお゛あふれちゃうぅうううっ!いくぅ、いぐいぐいっぢゃうぅぅっ!モリガンお顔でいぐのおぉっ!

 見てみでだぁぁりぃんっ、モリガンのイき顔ぉっ、ダーリン専用モリガンの幸せ顔ぉぉっ、幸せ過ぎて壊れちゃうぅぅっ!

 も、もりぃのぉぉっ、だぁりんのかわいいもりぃがぶっ壊れるぅぅ!あと3秒でとんじゃうわぁぁっ!

 2秒ぉぉっ、見てっ見てみでだぁぁりんっ、1秒ぅぅっ、いいいいいいいっちゃういっちゃういぐいぐいぐいぐいぐいぐぐぐぅぅぅ!来る来るぐるぅぅぅ……き…!た…!

 ゼ…ゼ………ゼ…ロ…ぉぉっ!!)

「ふんぬごぉぉおおおおおおおおおおおおおおオオオオォォ〜〜〜っ!!ブッボォォォォォォ〜〜ンッ!ブボ!ブボボボボボッ!ドピュッ!ドポォォォォォッ!!」

遂に訪れた顔面絶頂。

その威力にモリガンの思考は跡形も無く消し飛ばされ、赤熱した快楽と爆発的な衝撃に頭の中を完全に占領された。

大きく見開かれた瞳はぐるんと一気に裏返って白目をむき、

鼻の下を皮膚の限界一杯まで伸ばし頬をすぼめまくって愛しい彼の分身へ蛸の化身のような強烈な吸引力でへばりつく。

そして精液の逆流が頂点に達するのと同時に、鼻フック以上の力で、モリガンは自ら思い切り両の鼻腔を全開にまでこじ開けた。

二つの孔から盛大に噴出する、モリガンの顔の中を循環した彼の精液。

彼氏の生の香りを気道に焼き付けられながら、モリガンはまるで鼻の穴から射精するかのごとく、白濁を発射した。

挿入腔たる口と、排出腔たる鼻。

その顔で最愛の相手と交わる性器そのものとなる悦びに、モリガンの唇は自ずと卑猥な笑みを浮かべる。

そしてこの決定的瞬間を見逃す彼氏ではなかった。

閃くフラッシュは、モリガンの最高の笑顔を見事に捉えていた。

鼻腔から精液を発射し、夜の闇に白い放物線を活き活きと描くモリガンの笑顔、まさに“絶頂”と呼ぶに相応しいその痴態を実物どおりの迫力で写し撮り、

すかさずそのメモリーへ大切に保存する。

「ボピッ!ブピピピッ!ブゴッフゴォッ、ブポォォォッ!!」

噴水のように自分の顔へ子種を撒き散らし、白く染まっていく恋人の表情は、彼の目には幸福そのものに映っていた。

悪戯心から、握ったままの鼻フックを軽く引いてやると、モリガンの吐き出す汁の角度と声色が変わる。

「ンプッ、プピュッ!ブ…フッ!ビヂャァッ!」

やがてモリガンが彼の股間に顔を埋めたまま気を失うまで、彼氏は彼女の顔で優しく遊んでいた。

その視線は、他の何を見る時よりも愛しげであった。



朦朧とした意識の中で、モリガンは彼の声を聞く。

感激の涙で潤んだ瞳では物の形を捉える事は困難だったが、目の前に差し出されたそれだけはくっきりと見て取る事が出来た。

それは黒革で出来た一本のベルトであり、中央に金属のプレートがはめ込まれていた。

ハートをあしらった彫刻を添えて、そこにはこう刻印されていた“MORRIGAN”と。

それが、彼女の為だけにしつらえられた首輪である事を理解するまでに、長くはかからなかった。

彼を見上げ、モリガンは従順にこくんとうなずく。

しっとりと火照る陰部と共に、心の芯が甘く痺れて蕩け落ちそうであった。

こんなにも強く彼に求められるのなら、喜んで自分の全てを差し出したい。

モリガンはそう思う。

(んはぁあ……だぁりん、もっと私を欲しがって……もりぃはおかしくなっちゃったの。

 もう、だぁりんの事しか考えられない…モリリンはだーりんのメロメロラブリンなのぉ……)

脱力したまま彼の指に自分を委ね、首輪をはめて貰う心地よさにモリガンは艶かしい溜息をつく。

そして鼻先のこそばゆさで、自分がフックを掛けられたままなのに気付いたが、それと同時に首の裏で金具が閉じる小さな音がした。

首輪の掛け金にベルトを接続しされ、彼はモリガンの鼻フックを固定したのだ。

(え…?このまま……?そんなに私の顔を気に入ってくれたのね……豚みたいな鼻なのに……

 いいえ。みたい、じゃないわ。だぁりんったら、私を雌豚にしちゃいたくなったのね……でも、それなら……)

まるでその懸念を察したかの様に、彼の手がモリガンの体へと伸び、その身にまとった衣服を丁寧に脱がせにかかる。

野外であるというのに、対するモリガンもそれに抗うどころか彼が脱がしやすいように体を明け渡してやる。

野外なのに、ではない。だからこそ、なのだ。

(だって、豚が服を着ているなんておかしいものね。やっぱりだーりんならわかってくれる……ううん、きっと私と同じ気持ちなのね……)

路面に衣服が滑り落ち、モリガンは一糸纏わぬ生まれたままの姿となった。

身に着けているのは、彼から与えられた首輪と鼻フックのみ。

隷属を体現したモリガンの姿を目の当たりにし、彼の瞳が小さく揺れる。

その緊張をモリガンはほぐしてやろうとする。

「ぶぅ、ぶぅー」

他愛もない豚の鳴き真似で冗談めかしてやると、彼は小さく笑う。

リラックスした様子でベンチを立つと、モリガンの首輪にリードを繋いでそれを軽く引く。

四つん這いになり歩み始めようとするモリガンだが、その鼻先に彼の指が押し当てられた。

(……んん…そうね。本物はあんな声じゃないわ。

 私は……だぁりんの本物……本物の……雌豚に…なるのね……

 見ててね、だぁりぃん……私、豚になるわ……

 私はだぁりんの……ラブリンペット……雌豚のモリガンちゃんよ……)

「ぶごっ……ふごっ、ふんごぉぉっ、ぶががが……ぶぎぃ!」

気管の奥に力をこめ、はしたなく鼻息を鳴らし始めるモリガン。

鼻腔の凹凸に擦れ、鼻肉を揺らすその音声は本物の豚と聞き間違えそうなほどの、迫真の演技であった。

いや、演技というよりそのものになりきり、モリガンは彼の足元へ擦り寄る。

彼は一瞬だけ驚いた顔を見せたが、すぐにそれは笑顔へと変わってモリガンの頭を撫でてくれた。

手綱を引き、彼は期待を隠しきれない足取りで歩き始める。

その先にあるのは、公園の遊歩道を外れた、草木の生い茂った暗がりである。

そこで何をしてもらえるかと想像するだけで、モリガンは鼻息が荒くなってしまう。

もはや彼を追い越しかねない勢いで芝生に足を踏み入れ、腕も使わず顔で青葉をかきわけてモリガンは茂みの中へと潜り込んでいく。

彼に寄り添われ、月明かりに妖しく光る濡れた白い太腿が、夜の闇の奥底へと溶け込んでいった。




ある日、男一人の下宿部屋に、絹を八つ裂きにするような女性の絶叫が響き渡った。

「な、な、何よこれえええっ!?何考えてるのよっ!!」

声の主はモリガンである。

彼女が指差しているのは彼氏の机の上に置かられた額縁大のサイズの写真立てである。

そこには恋人であるモリガンの顔写真が臆面も無く収められており、それは別に良かった。

問題は、表情である。

何とそこに飾られていたのは、白目をむいたひょっとこ顔に加え鼻フック状態で精液を逆流させて絶頂する瞬間の、あの顔だったのである。

とてもモリガンと同一人物とは思えない、超弩級の下品な笑顔を丸出しにしているその表情を、

最新式デジタルカメラと専用プリンタを駆使した最高画質とドアップで捉えており、

おまけに磨きを掛けた彼の撮影技術が加わっているのである。

今にも写真から飛び出してきそうなほど生々しい迫力のあるモリガンの醜態を、彼は机に大々的に飾っていたのだ。

「だっ、大体何なのよこれぇっ!こんな顔私がするわけないでしょっ!合成だか何だか知らないけど、おかしな事をしないでちょうだいっ!!」

あの夜の事は途中から記憶が飛んでいて覚えていない、というのがモリガンの言い分であった。

確かに、翌日からの彼女の態度はいつもと大きく変わることは無く、あの夜の極度の興奮状態からすれば、覚えていないというのも有り得そうな話ではあった。

それはさて置きと、顔を真っ赤にしてわめくモリガンにも動じず、彼は一つの封筒を手渡した。

「え…?何よこれ。写真……って、ちょっとぉぉっ!!」

入っていたのは一枚の写真であった。

映っているのは二人、彼とモリガンである。

だが、彼の方はしっかりとカメラに視線を向けているのに対して、モリガンは体力を使い果たしてぐったりと彼に寄りかかっている。

その視線はあさっての方向に飛んでおり、しかもまたしても鼻フックをつけたまま、更に今度は首輪まで付けた全裸姿だったのだ。

「わ…私っ、こんな事してないんだからーっ!!」

もう怒り続ける事も出来ず、恥じらいの一色で顔を真っ赤に染めてモリガンは部屋を飛び出していった。

その後姿を椅子に座ってゆったりと見送る彼氏は、一つの事実に気付いていた。

モリガンは、彼の渡した写真をしっかと抱きかかえて走り去っていたのだ。

きっと、今夜は、と彼は想像する。


彼氏の目を逃れたモリガンは、そっと先ほどの写真を取り出す。

そこに映ったツーショットを見ていると、あの夜の感覚がまじまじと蘇ってくるかのようだった。

内股をもじもじとさせたくなる一方で、うつむいたその美しい鼻梁がつんと熱くなる。

「ほ……本当なんだからっ。あんな顔も、こんな事もしない…した事ないんだから。

 ダーリンが初めてよ。……ダーリンだけなんだからねっ!」

面と向かっては言えない台詞を、一人呟くモリガン。

その首筋は黒革と金属が放つ一筋の光沢に彩られていた。

彼女の名が刻まれた、彼女の為の首輪。

あの夜以来、モリガンはそれを肌身離さず身につけていた。

自分が、モリガンが彼だけのものとなった証を。